「『若々しいですね』とか言われれば悪い気はしないけれど、70年生きてきたというのはどうもピンとこない。ついこの間まで原宿あたりを拠点にバイクを乗り回していたのにって(笑)」
『西部警察』の刑事役など、石原プロモーションの看板俳優の一人として、映画やドラマで、また、歌手としても活躍してきた舘ひろしさん。近年では、コミカルな役やCMでも違った一面をのぞかせている。(構成=丸山あかね 撮影=宅間國博)

渡さんとの別れが受け入れられなくて

2019年に古希(数えで70歳)を迎えました。人に伝えてビックリされると照れちゃって。「若々しいですね」とか言われれば悪い気はしないけれど、70年生きてきたというのはどうもピンとこない。ついこの間まで原宿あたりを拠点にバイクを乗り回していたのにって(笑)。僕が「クールス」というバイクチームを総括していたのは20代半ばの頃だから、もう半世紀近く前のこと。つくづく時が経つのは早いなと思うわけです。

特に昨年はコロナに翻弄されているうちに終わってしまったという気がします。世界中の誰にとっても2020年は厳しい年だったし、今も苦しみの中にいる方がたくさんいると思うのだけれど……。僕の場合、渡哲也さんが亡くなるという悲しい出来事が重なりました。

いつかは今生の別れが来ると頭ではわかっていても、いざ現実のこととなると心が追いつかない。そういう感覚に陥るのは初めてのことで、しばらくの間、何もする気になれないまま、ボーッとしていました。現実逃避していたのかもしれませんね。


ーー俳優の渡哲也さん(享年78)が肺炎のため他界したのは20年8月10日のこと。静かに逝きたいという渡さんの遺志により密葬が行われたのち、石原プロの関係者には8月12日、一般には8月14日に公表。お別れの会などはなく、9月16日に四十九日法要が営まれた。


僕はお通夜も告別式も出席が叶いませんでした。寂しかったけれど、自分が行けばご遺族は「それならあの方にも来ていただかなくては」という話になってしまう。逆に、舎弟であるところの僕ですら参列しないのだからと示し、周囲の人たちに納得していただくのが自分の役割なのかなと考えました。渡さんも「それでいい」と言ってくれていると思います。

そもそも死に際に会うとか、亡骸に対面するってことには、あんまり意味がないというか……。人によっていろいろな価値観があるのでしょうが、少なくとも僕は、生きているときに誠意を尽くす、話しておきたいことがあれば心を打ち明け、伝えたいことがあれば恥ずかしがらずに伝えるということのほうが大事だと思う。

それに葬儀に参列しなかったのもお骨を拾わなかったのも、ある意味、優しい別れでした。おかげで僕は今も渡さんが生きているような錯覚を覚えます。いつ電話がかかってきても不思議じゃないと思っているくらい。