不朽の名作『ベルサイユのばら』をはじめ、数々の作品を生み出した漫画家の池田理代子さんは、48歳のとき音大に入学、声楽家としても活躍し、その多才ぶりでも知られる。そして先ごろ出版したのは歌集。10代のころからしたためていた中から選んだ短歌167首が、圧倒的な表現力で心に迫ってくる(構成:山田真理)
父と母が出会い、私が生まれた奇跡
中学生のとき、国語の先生が与謝野晶子の「君死にたまふことなかれ」を朗読してくれました。七五調の日本語の美しいリズム、そのなかに反戦の思いを込めた言葉の力に私はとても心を打たれて。『みだれ髪』などの歌集も手に取り、そのうち自分でも短歌を詠むようになりました。
20代で漫画家としてデビューし、40代でオペラ歌手の活動を始めてからも、31文字をしたためていました。父や母の姿、大人になってからの恋。大好きな山のこと、旧西ドイツへの留学、カンボジアで目にした現代史の闇、老いた猫の看取り――など、自分が生きていくなかで出会い、感じたことを日記のように歌に込めてきたのです。
そうして書きためた短歌に、いくつかの短文を添えて編んだのが本書『寂しき骨』です。刊行のきっかけは、「父と戦争」についての歌を発表したいという強い思いでした。
先の戦争で、一兵士として戦った父。娘として、父と戦争について語る機会は多くありませんでした。しかし南方で捕虜となり、辛うじて生還した父が母と結婚したからこそ、私が生まれている。
その奇跡を思うと、85歳で亡くなった父をはじめ、多くを語らずに戦後を生きてきた人々の思いを形にして残したいと考えたのです。その気持ちが、〈手榴弾一個ばかりの命にて語れぬ日々を兵士は生きたり〉という歌になりました。