青木さやかさんの好評連載「47歳、おんな、今日のところは『……』として」ーー。青木さんが、47歳の今だからこそ綴れるエッセイは、母との関係についてふれた「大嫌いだった母が遺した、手紙の中身」、ギャンブル依存の頃を赤裸々に告白した「パチンコがやめられない。借金がかさんだ日々」が話題になりました。第13回は「『東京に憧れていたわたし』として」です。
お洒落な美容院へ
久しぶりに、表参道のスターバックスに来た。わたしの所属するワタナベエンターテインメントが表参道にあり、今日は打ち合わせのために来たのだった。街には「SALE」という文字が並ぶ。
ここに来ると思い出す。高校生のとき、初めて表参道に来た日のことを。
1980年代、初めて東京に来た。親戚が千葉の我孫子に住んでいて、従姉妹に会いに来たのだ。ディズニーランドへ行き、翌日表参道へも行く、という予定であった。わたしはワクワクし、どうしても表参道で髪を切ってもらいたくて、今はなき『Olive』という雑誌の情報を頼りに、一番オシャレだ、という美容院を予約した。
表参道に着くと、そこにはドラマでみた世界が広がっていて、なんのドラマかわかんないけどスゴい! と興奮した。
いま一番オシャレな美容院は地下にあった。真っ白の壁に、英語で店名が書かれていた。美容師さんたちは、みなオシャレすぎて、わたしはあっという間に気遅れした。「美容院は鏡ばりがオシャレだ」と思っていたが、地下の光の入らない美容院は、「鏡ばり」を超えてきた。
「ご指名ありがとうございます」
指名した記憶はないが、私はその美容師さんにペコっと頭を下げた。地元では見たことのないニュータイプの男性がそこにいた。髪が半分は長くて半分は短かった。
「シャンプーは、こちらです。はい、シャンプー入ります」
「はいシャンプー入ります」
「はいシャンプー入ります」
スタッフが口々に発するさまは、部活の「先輩通ります」を思い出させてくれた。