鏡のなかに映ったのは……
お兄さんは、大切そうにハサミを扱いながら、さささささっと髪を切った。わたしは恥ずかしかったから、鏡をみずに本を読んでいるふりをした。
しばらく時間が経ち、似合いますよ、とお兄さんが手渡してくれた手鏡に反射して大きな鏡に映ったわたしの後ろ髪は、驚くことに刈り上げられていた。なにこれ。
「やっぱり似合いますね!」
お兄さんは再度言った。
わたしは、嘘をついた。
「ほんとだ! かわいい」
わたしは、耳がキーンとして、鼓動が速くなって、お兄さんの声も聞こえなくなったけど、一所懸命に愛想良くして、急いで店の外に出た。109のトイレに行って、髪型をじっくりみた。必死に後ろを見ようとしたが、あまりよく見えなかった。手で後ろ髪を触ってみると、ジャリジャリして、やっぱり髪がなかった。
泣きたかった。
「わたしが思った感じと全然違う!」
急に疲れて、我孫子に帰って、鏡を見たら更に疲れて、愛知県に帰った。
高校の制服には、さらに刈り上げは似合わないようにみえた。後ろの席の男子が30センチ定規で私の髪を何度も触って、「刈り上げ刈り上げ!」とからかった。わたしは、「もーやめなよ、子どもじゃん」と平気な顔をして強がったが、翌日学校を休んだ。
今も、表参道に来ると、ドラマの中にいるようで、ワクワクする。
そして、わたしは今も刈り上げている。
青木さやかさんの公式HP
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