婚姻届を出さずに子どもを育てよう。どこまでやれるかやってみよう(イラスト:おおの麻里)
「選択的夫婦別姓」の議論はいまだ続いている。末松さん(仮名・69歳)は、愛する人との子どもを妊娠した40年前、改姓を拒んだ。結果、夫婦で選んだのは、婚姻届を出さずに子どもを育てる道だった。子どもへの愛情、経済的自立の挫折、男の裏切り──。私たちは普通の夫婦と何が違ったのだろう。自らの半生を振り返る

姓が変わってしまったら自分がなくなりそうで

「選択的夫婦別姓」について、国会で議論されている。私がこの件について考え始めた10代の頃から50年以上も経っているのに、状況は当時と変わらないままだ。

「女の子だから、四年制大学は行かなくていいよ。短大のほうが結婚のお相手も見つかりやすいし、幸せになれる。女の一番の幸せは優しい男性に嫁ぐこと」。学生の頃、周りの大人たちはそんなふうに私に勧めた。私は結婚について考えてみたけれど、お伽噺のように素敵な王子さまを見つけて結婚する未来を夢見ることができなかった。

それはなぜか――。病弱な私の父は仕事を休みがちで家計が苦しく、代わりに母が仕事と家事と育児に追われていたからだ。父には、忙しい母のために家事を分担することなど考えられなかったのだろう。だから母には、着飾ったり遊びに出かけたりして生活を楽しむための時間的・経済的余裕がまったくなかった。

今思うと、それでも母は夫と子ども2人との暮らしを幸せに感じていたのかもしれない。しかし当時は母が幸せそうには見えず、母も「まるで家内奴隷ね」と自嘲的に微笑みながら自分のことを話していた。

私には、働くうえで家事・育児は足かせでしかないと思えた。兼業主婦では仕事が中途半端になりそうだし、専業主婦では経済的に夫に依存することになり、精神的にも夫に従属してしまいそうだ。

夫が浮気をするようなことがあれば、生活のために耐え忍ぶか、離婚して貧乏生活に陥るか、究極の選択を迫られることになる――。そんなふうにしか考えられなかったので、結婚に憧れる女性が大勢いることが不思議だった。こんな不安定な生き方をどうして選択できるのだろうか、と。