新型コロナウイルス感染症との闘いは、はや1年半を過ぎた。最前線でコロナと闘う医療従事者の苦悩を描いた小説『臨床の砦』を緊急出版した医師・作家の夏川草介さん。感染拡大の初期から患者を受け入れている、東京都内の病院の感染予防管理のスペシャリスト・坂本史衣さん。最前線で働く2人が、逼迫する医療現場の現状と、今後の見通しについて語り合った(構成=平林理恵)
ダイヤモンド・プリンセスの患者が
夏川 私は、長野県にある消化器系を中心とした200床弱の小さな病院に勤務しています。私自身は消化器内科が専門で、院内に呼吸器の専門家は一人もいません。にもかかわらず、「感染症指定医療機関」だったために、2020年2月、クルーズ船(ダイヤモンド・プリンセス号)の患者を受け入れることになりました。
以来、感染症についての知識や経験のないスタッフが手探りの状況で、奮闘を続けています。地域唯一の指定医療機関ですから、37度を超える熱があれば、患者は骨折だろうと膀胱炎だろうとすべて当院へ送り込まれてくる。とくに第一波から第三波にかけての発熱外来は地獄のような様相でした。
坂本 私が勤務している東京都中央区の聖路加国際病院では、感染症科、呼吸器科、一般内科、救急部、集中治療科、産科と小児科で新型コロナの診療を手分けし、私は病院全体の感染予防管理を専門に行っています。
クルーズ船の感染者が来る前、外国人観光客のなかに何人か感染者が出たときが新型コロナとの出合いです。本格的な波がやってくる前にこの病気への対応をシミュレーションすることができたのは幸いでした。
初めは手探りでしたが、事務系のスタッフも含めてみんなで知恵を出し合いながら診療を始め、小さい村が大きな町になるみたいに体制の規模を拡充していきました。
夏川 なるほど。現場が回っていかないような逼迫した状況にはならないで済んだのですね。