毎年10月は里親月間。2021年10月も、里親制度を知ってほしいと、厚生労働省が中心となり大規模なキャンペーンが展開されていました。親と暮らせない子どもを迎えての毎日には思いがけない出来事が起こる一方、深い喜びもあるという。里親家族をたずねた(取材・文◎樋田敦子)
お腹からもう一度生まれて
関西地方に住む医師の吉竹由美さん(54歳、仮名)は、2016年に夫婦で養育里親研修を修了して里親に登録。すぐに小学5年生の女児Nさんを預かることになった。
当初は、3ヵ月後には実母がいる県の施設に入るという約束だった。里子とのマッチングは、通常は半年~1年ほどかけて順次、面会、里親宅での外泊へと進んで決定されるが、吉竹さんの場合は3ヵ月限定の予定だったため、1週間のマッチングを経て、「ここに来たい」というNさんの意思で預かることが決まった。
Nさんは生まれた時から乳児院、児童養護施設で暮らし、実の親とは暮らしたことがない。県内に住む祖母が面会に来てくれるものの、ひとりの養育者に継続して育てられたことがなかった。
吉竹さん夫婦には実子がなく、大人2人の家庭にきた子どもに、夫は生活のペースを乱されて戸惑い、Nさんもまた「知らんおっちゃんとずっといる」状況に慣れるのに時間を要した。しかしそれも最初だけのことで、約束の3ヵ月を過ぎても「修学旅行まで」「中学も友達と一緒に」と、Nさんは吉竹さん宅にいることを望んだ。
やがて由美さんに対して〈愛着〉(子どもと養育者の間で築かれる心理的な結びつき、アタッチメント)を求める行動をするようになる。