イラスト:川原瑞丸
ジェーン・スーさんが『婦人公論』に連載中のエッセイを配信。友達との話の中で「男に追いかけさせる」という恋愛テクニックが出てきたというスーさん。恋愛の価値が下がったと言われる昨今もそんなテクニックが存在するのか、念のためインターネットで調べてみるとーー。(文=ジェーン・スー イラスト=川原瑞丸)

「で、相手に追いかけさせるわけ」

同世代の女友達から、イイ感じになった相手との馴れ初めを聞いていた時のこと。開口早々、彼女はこともなげに言った。「で、相手に追いかけさせるわけ」。

我々アラフィフがヤングだった頃、異性愛者である女にとって、恋愛は男に追いかけさせるほうがうまくいくと言われていた。そのテクニックはまだ有効なようだ。

男の狩猟本能。そんなものが実在するのか知らないが、それをくすぐる行動が推奨されていた時代は確かにあった。そして私は、そのやり方がわからないまま半世紀近く生きている。

私は男に追いかけられたことも、追いかけさせるように仕向けたこともない。矜持ではなく、能力がない。付き合う相手はコンスタントにいたので、それ以外のやり方でなんとかしてきたんだろうし、これからも運が良ければそうなる。しかし、「追いかけさせる」を知らないまま死んでいくのは少し惜しい気もする。

追いかけさせるためには、ただ逃げるだけではダメだ。「手に入れたくて仕方がない」と相手に思わせなければならない。自分の魅力が皆無だとは思わないが、いますぐ手に入れたくなるほどの焦燥感を喚起する魅力には乏しい。結局、美人とか可愛いとか、そういう女にしか適用できない法則なのではないか。

ウーンと唸って、ハッと正気に返る。アラフィフになっても、まだこんなことに脳みそを使っている自分が信じられない。世の中にはもっと大事なことがたくさんあるはずなのに。