(写真はイメージ。写真提供:photoAC)
時事問題から身のまわりのこと、『婦人公論』本誌記事への感想など、愛読者からのお手紙を紹介する「読者のひろば」。たくさんの記事が掲載される婦人公論のなかでも、人気の高いコーナーの一つです。今回ご紹介するのは70代の方からのお便り。2年前に父親が亡くなってから、母親と二人で暮らしていましたが、その母親も急逝し――。

母のいない部屋で

先頃、90歳の母が急逝。高齢ゆえに動作も鈍くなり、「体がきつい」と言っていたが、直前まで自分で起床し、食事もとっていた。

その日の母は急に痰がからみ出して、自力でソファに座れなくなった。慌てて救急車を呼んだら、即入院に。8日目の朝、看護師さんに電話で様子を尋ねたところ、「微熱がありますが、酸素吸入器も不要になって、検査結果が良好なら自宅に戻るためのリハビリを開始します」と言われた。それゆえ、その夜に亡くなったことを知らされた瞬間、頭の中が真っ白になった。

母と同い年の父が亡くなって2年。その間、私は葬儀や相続手続きに追われ心身ともにくたくただった。いろいろな手続きが済み、落ち着いたように見えた母だったが、父を亡くしたショックからか、元気がなくなって愚痴が増えた。

「あなた一人になったほうが、気楽で好きなことをできていいかも」などと言う。一人っ子で未婚、体調も優れない70歳の私だから少し腹が立った。私が「そうね、家族や姉妹がいれば別だけど」と反発すると、母は決まって「人間はしょせん一人なのよ」と返す。

最後まで私に頼りきっていた母だったが、身近に肉親がいることがいかに心強くて心を癒やしてくれていたか、亡くしてみてはっきりとわかった。

寒いなか、買い物に出ても母が家を暖かくして待っていてくれた。今は自分で鍵を開けなければならない。寂しい部屋に戻ったとたん、何とも言えない悲しみがこみ上げてくる。


※婦人公論では「読者のひろば」への投稿を随時募集しています。

アンケート・投稿欄へ