奥田弘美さん(左)と中村恒子さん(2018年撮影 写真提供:奥田さん)
未来への漠然とした不安や、ままならない現実に心が疲れていませんか。著書が累計30万部突破のベストセラーとなっている中村恒子医師の人生観は、そんなあなたの参考になるはず。長年の交流がある奥田弘美医師が語る、恒子先生流の生き抜き方とは(構成=上田恵子  イラスト=関口ユートピア)

精神科医になるきっかけは恒子先生のアドバイス

1929年生まれの精神科医・中村恒子先生は、太平洋戦争末期にたった一人で広島・尾道から大阪へ出てきました。親類の援助を受けて医師になり、90歳まで病院に勤務。名声やお金儲けにまったく興味がなく、「流れに身を任せ、大げさなことは考えない」と淡々と生きる先生の姿に、私はずっと励まされてきました。

私は現在、恒子先生と同じ精神科医として働いていますが、そのきっかけをくれたのは恒子先生です。先生と出会ったのは、奈良県にある病院。148センチ、40キロ足らずの小柄な白衣姿で、男性医師に交じって医局のデスクにちょこんと座っていた姿を、今もはっきりと思い出せます。

その頃の私は、出産を経て、やりたかったホスピス医の仕事を辞めていました。慣れない育児に加え、どう生きていこうか悩みながら、病院併設の老人保健施設でアルバイト医師を始めたばかりで……。

そんなある日、「奥田先生は精神科医になったら? 向いてるよ」と声をかけてくださったのが恒子先生です。「なれるでしょうか?」と尋ねる私に、「大丈夫。子どもを育てながら医者をするなら精神科がええよ。どんな経験も役に立つし、ムダなことは何もあらへん」と一言。そうして私は精神科医に転向することになったのです。

以来、医師として、女性として、恒子先生から良き影響を受けてきました。そこで2018年に、そのしなやかな生き方を多くの人に伝えたいと、『心に折り合いをつけて うまいことやる習慣』という本にまとめたのです。