柏屋光貞 「京氷室」

冷蔵庫も冷凍庫もなかったそのむかし、氷は貴重品でした。京都の夏の暑さはことに有名ですが、いにしえの雲上人たちも涼を得る工夫をさまざまに行っていたようです。

山中につくった氷室という貯蔵所に、冬のあいだ天然の氷塊を蓄えておき、夏場になると都まで運んで宮中に献上していたといいます。

柏屋光貞の「京氷室」は、そんなかつてのゆかしい風習を偲ぶ菓子。寒天と砂糖でつくられる琥珀羹という干菓子ですが、氷の鋭角や真っ白な姿をあらわすのが身上。

また、割ったときに内側を氷のように透明に仕上げるには、火入れの加減や煮詰め方などに熟練の技を要します。シンプルな形だけにごまかしのきかない造形と味わい。

口に含んだときのシャリシャリとした食感もまた氷のよう。「青楓」を添えてより涼やかに、山中の風をも感じさせるこの季節ならではの銘菓です。