いまや300万人が働き、市場規模30兆円を誇る外食産業。その歴史を紐解けば、戦後の規制から農産物輸入規制と自由化の波、そして「ブラック企業」批判など、数々の苦境を乗り越えてようやく今に至っている。「それは金融などのように国から守られた産業と違い、ただ生存競争に明け暮れる、剥き出しの資本主義」と語るのが一般社団法人日本フードサービス協会顧問の加藤一隆さんだ。たとえばマクドナルドがはじめた「安売り競争」に反旗を翻した和製ハンバーガーチェーン、モスバーガーの歩みはその一つだそうで――。
マクドナルドがはじめた《勝者》なき安売り競争
モスバーガーの創業者、櫻田慧(さくらださとし)さんの最大の試練は、ハンバーガーチェーンの安売り競争だったと思います。これは、モスバーガーだけではなく、ハンバーガーチェーン全体の試練でした。
バブル経済が崩壊し日本経済全体が低迷・停滞するなかで、1990年代半ば以降、落ち込んだ消費は外食産業にも影を落としました。そうしたなか、最大手のマクドナルドは1995年に主力商品のハンバーガーを210円から一気に130円に値下げしました。
競合他社も追随せざるを得ない状況で、これを機に、ハンバーガーチェーンで勝者なき過酷な安売り競争が繰り広げられることになります。火付け役となったマクドナルドはその後も値下げを続け、2000年には平日限定ですが、130円の半額の65円まで価格を下げました。
日本上陸当初は、ちょっと贅沢でおしゃれな食べ物だったハンバーガーのイメージは、庶民の味方の安いファストフードに変わってしまいました。ハンバーガー業界は、いまもこのときに浸透してしまったイメージから脱却できずに苦しんでいます。