「長女に『ここまできたらやるしかないんじゃない?』と背中を押されて、一歩踏み出すことができました。」(撮影:川上尚見)
バラエティ番組全盛期の1980年代、元祖アイドルアナとして人気を博した寺田理恵子さんはいま、音読や朗読教室の講師として活躍する。「音読の魅力を広く伝えたい」のは数々のつらい経験から立ち直る力の源になったからだ。(構成=篠藤ゆり 撮影=川上尚見)

<前編よりつづく

音読トレーニングで健康を取り戻す

転機になったのは、次女の小学校で開催された、お天気キャスターの森田正光さんの講演会です。保護者として会場に行ったところ、たまたま森田さんについていらしたディレクターに再会。かつてお世話になった方で、「そういえば生島ヒロシさんが心配していたよ」とおっしゃって、連絡先を交換しました。

ここから生島さんのラジオ番組のアシスタントとして復帰する、という思いがけない話が進んでいったのです。

もちろん、最初は「無理です」とお断りしました。なにせまともに電話応対すらできない状態ですから(笑)。でも長女に「ここまできたらやるしかないんじゃない?」と背中を押されて、一歩踏み出すことができました。

久しぶりにラジオ局のブースに入ってマイクの前に座ると、カチコチに固まって言葉が出ませんでした。そこで始めたのが音読。アナウンサーの基礎に立ち返ろうと、毎日声を出して新聞を読むようにしたのです。続けるうち徐々に声が出るようになり、お腹に力が入ることで正しい姿勢も保てるようになりました。53歳のときのことです。

その後、長女が卒業した大学から朗読の講師をやってみないか、という依頼があり、ますます世界が広がっていきました。

音読と朗読は声に出して読む点においては同じですが、テキストを正確に読む音読に対し、朗読は聞いてくれる人がいるのが前提。誰かに聞かせるのが目的ではない音読は一人で自由にできますが、朗読は内容をどのように解釈し、いかに表現するか、が問われる分野です。

音読や朗読を始めて、気づいたことがありました。それまでの私は誰とも話さない期間が長かったので、言葉がパッと出てこないし、体全体の筋力も低下。高齢者やプレ高齢者に多い、いわゆるフレイル状態でした。長く専業主婦だったため社会との接点が少なかったことも、一人暮らしの高齢者に通じる状態だったように思います。