牧野さんが「『大日本植物志』こそ私に与えられた一大事業であった」と語るその理由とは――(写真提供:Photo AC)
2023年4月3日より放映されるNHK朝ドラマ『らんまん』の主人公、牧野富太郎。愛する妻との別れ、家の没落、借金、大学での不遇……。いくつもの壁にぶつかりながら、ひたむきに植物を愛し、その魅力を伝えることに情熱をそそいだ植物学者としての人生が描かれます。実は小学校を退学し、その後は学校に通うことのなかった彼が「『大日本植物志』こそ私に与えられた一大事業であった」と語るその理由とは――。

わたしがうまれたとき

佐平と久寿の間にたった一人の子として私は生れた。

私が四才の時、父は病死し、続いて三年後には母も亦病死した。両親共に三十代の若さで他界したのである。

私は未だ余り幼なかったので父の顔も、母の顔も記憶にない。私はこのように両親に早く別れたので親の味というものを知らない。

育てて呉れたのは祖母で、牧野家の一人息子として、とても大切に育てたものらしい。

小さい時は体は弱く、時々病気をしたので注意をして養育された。

祖母は私の胸に骨が出ているといって随分心配したらしい。酒屋を継ぐ一人子として大切な私だったのである。