「性的なシーンに限らず、そもそも日本には、諸外国のように俳優の権利や尊厳を守る労働団体がない。俳優は、傍から見る以上に大きなプレッシャーを抱えながら日々演技をしています」(撮影:洞澤佐智子)
昨今のエンターテインメント業界では、国内外を問わず多数のハラスメント問題が取り沙汰されている。なかでも、映画やドラマでヌードになったりラブシーンを演じたりする際の、俳優の心身の負担は計り知れない。制作陣と俳優との仲介役「インティマシー・コーディネーター」は、2022年の新語・流行語大賞にノミネートされるなど、いま注目を集める職業である。浅田智穂さんは国内初のインティマシー・コーディネーターとして、2年半前より日本の映像作品に携わるようになった(構成=玉居子泰子 撮影=洞澤佐智子)

日本で受け入れられるか不安だった

準備中や情報公開前のものを含めると、これまで私が関わった映画やドラマは約20作品。2022年から一気に作品数が増えたように思います。

この仕事のことを知ったのは3年前。アメリカの高校・大学を卒業後、私は日米を行き来しながら、映画や舞台を中心にエンターテインメント業界で通訳の仕事をしていました。そんなある日、Netflixに勤める知人から「インティマシー・コーディネーターという仕事を知っていますか」と声をかけられたのです。

「今度Netflixが撮影する『彼女』(水原希子さん・さとうほなみさんW主演)という映画作品に導入したいので、ぜひ資格取得のための講習を受けてほしい」

当時の私にとって聞き覚えがある程度でしかなかったインティマシー・コーディネーターが、アメリカの映像業界に導入されるようになったのは17年のことです。

日本には資格認定試験を扱う団体がないので、アメリカのIPA(インティマシー・プロフェッショナルズ・アソシエーション)の講習をオンラインで受講しなければなりません。悩んだものの、やってみたいと思いました。