気候変動による環境条件の変化や、人口増加による開発利用促進の圧力の高まりなど、自然・社会経済にまたがるさまざまな要因で森林は失われている(提供:photoAC)
カナダ東部で山火事が相次いで起こり、その煙が隣国アメリカにまで流れてニューヨークでは深刻な大気汚染が起きています。森林科学の第一人者である岡山大学名誉教授の吉川賢先生いわく、気候変動の深刻化は、予想がつかない広がりで森林生態系をむしばんでしまうとのこと。森林が失われる原因のひとつに山火事がありますが、湿潤な日本では何が原因となって起きるのでしょうか――。

国破れて山河あり?

シリアの地中海の港町ラタキアの東にあるサーヒリーヤ山脈の山中で、立派なアレッポマツの森林が焼き払われてしまっていた。シリアの国内情勢が比較的安定していた1990年代のことで、政府は焼け跡の有効利用のため、火事で焼けた木は伐ってしまって開墾してもいいことにした。

すると、みんなが急いで森林に火をつけた。ところが、焼け跡から木を伐り出しただけで、農地はまったく作られていなかった。

森林や樹木は農地のように所有権や使用権が個人に属することが少なく、多くは地域社会の慣習によって守られてきたため、社会が不安定になり、規制がなくなったり緩んだりすると、真っ先に破壊的に利用されてしまう。

森林の「コモンズの悲劇」である。その後の消耗戦の様相を呈する内戦の中で、シリアの森林はどうなってしまっただろう。「国破れて山河あり」と謳った詩人の時代は遙か昔、機動力のある争いの中では、森林や山地がまず最初に荒廃してしまう。

戦争に伴う社会不安によって、森林が無秩序に利用されてしまう傾向は洋の東西を問わない。さらに、気候変動による環境条件の変化や、人口増加による開発利用促進の圧力の高まりなど、自然・社会経済にまたがるさまざまな要因で森林は失われている。

被害の大きさに世間の耳目が集まる世界中の大規模な火災を例に取りながら、森林火災から見える森林と気候変動、そして人々の暮らしの関係をはじめに見てみよう。