長野県のJR明科駅構内で夜を過ごすハシボソガラス(2007年3月9日撮影)(写真・唐沢孝一)
人以外の生物にとっては棲みにくいはずの都市に、近年多くの野鳥が進出しています。東京都心や千葉県市川市を中心に、半世紀以上にわたって都市鳥を観察してきたNPO法人自然観察大学学長の唐沢孝一さんが分析した、人と鳥との関係性の変化とは。バブル期に急増したカラスですが、近頃は都心のカラスが減っているとのことで――。

急増した都心のカラス

第1回カラス個体数調査を1985年に行い、以後5年ごとに2021年(2020年調査を1年延期)までに8回実施した。大事なことは「同じ場所、同じ方法」で長期にわたって「継続」できるかどうかである。10年、20年、30年と「調査を継続することにより初めて見えてくる世界がある」というのが、筆者が自然から学んだことの一つである。

都心のカラスの集団ねぐら(3ヵ所)の羽数の36年間の変化(唐沢他,2021)

調査結果からまず気づくのは、1985年(第1回調査)から2000年(第4回調査)の急増ぶりである。15年間で約3倍になり、ゴミをあさるカラスが社会問題になった。東京都や区への苦情が殺到。石原慎太郎都知事の声掛かりで2001年にはカラス捕獲作戦が始まった。

東京都心のカラスの集団ねぐら(3ヵ所合計)の羽数の36年間の変化(唐沢他,2021)

カラス急増の主な原因は餌となる生ゴミの増加である。1980年代に飽食の時代を迎え、バブル経済(1986~91年)がこれを後押した。早朝の銀座や渋谷の路上はハシブトガラスの好む肉や天ぷらなどの生ゴミで溢れんばかりであった。

当時はポリバケツに入れたままで蓋もせずに路地に山積みされ、深夜にもゴミが出された。早起きカラスにとっては食べ放題である。

ゴミ収集作業は朝からフル活動してはいるが、ゴミの量が多すぎて回収が間に合わない。さらに当時の東京湾ゴミ処分場では、生ゴミはそのまま捨てられ、カラスやユリカモメが群がって食べる光景が見られた。カラスの急増は、バブル経済を象徴するものであった。