電線でねぐらをとる金沢のカラス

東京のカラスは、夜間は人の立ち入りが禁止されている鬱蒼とした森で、集団で夜を過ごす。ねぐらにしている樹木の下を人が通るのを極端に嫌うのだ。

ところが金沢市では、カラスが繁華街の電線で夜を過ごし、その下を人が通っている。1990年10 月には兼六園下した交差点付近の電線で計60羽を数えた。

その後、2004年2月、NHK金沢支局のディレクターから電話が入った。「市内の大通りの電線でカラスがねぐらをとっている」と言う。2月21日、NHKスタッフに案内されカラスが眠るという金沢の現地を訪ねた。

場所は金沢城公園の北側の大通り。NTT金沢支店ビルから大手町病院にかけてのビル街である。その数約400羽。電線に止まっているのはすべてハシブトガラスであった。歩道はカラスの糞で真っ白であり、道行く人はカラスの糞を避け、反対側の歩道を歩いている。東京都心の集団ねぐらでは、木の下を人が歩いただけで大騒ぎして飛び立ってしまうのとは大違いである。

金沢の中心街の電線で夜を過ごす役400羽のハシブトガラス(2004年2月21日撮影)(写真・唐沢孝一)

金沢では金沢城公園でカラスの集団ねぐらが形成されているが、個体数が増えて市街地に進出して夜を過ごすようになったと考えられている。ただし、金沢市では景観美化や防災の立場から積極的に無電柱化が進められている。電線でねぐらをとるカラスは、いずれ姿を消すことになるだろう。

 

※本稿は、『都会の鳥の生態学――カラス、ツバメ、スズメ、水鳥、猛禽の栄枯盛衰』(著:唐沢 孝一/中公新書)の一部を再編集したものです。


都会の鳥の生態学――カラス、ツバメ、スズメ、水鳥、猛禽の栄枯盛衰』(著:唐沢 孝一/中公新書)

都市を舞台に繰り広げられるカラスと猛禽類(オオタカやハヤブサ)のバトル、人と共存してきたスズメやツバメの栄枯盛衰、都市進出の著しいイソヒヨドリ――本書は、これら都会に生きる鳥たちの生態を通して、都市とは何か、都会人とは何か、変化する鳥と人との関係などを紹介する。都市環境に適応して生きる鳥たちのしたたかな生態を解説するとともに、巨大都市東京の変貌をひもとく、都市の自然誌でもある。