大相撲は何が起きるか分からない
大相撲秋場所は中日8日目を終え、横綱・照ノ富士が休場のため、3大関の誰かが「アレ」を獲得すると期待したら、本来の強さが空回りしているようで、新大関・豊昇龍は5敗、カド番の霧島と貴景勝は3敗だ。新関脇・琴ノ若は4敗である。トップは1敗の前頭7枚目・高安と前頭15枚目・熱海富士のみという状態。
8日目、貴景勝は小結・翔猿との攻防のすえ、押し出されて土俵から落ち、険しい表情で花道を帰った。館内の騒ぎの中、別のどよめきが起きた。NHKテレビ画面の端に少し見えたが、立行司・式守伊之助が弓取式の勇輝に弓を渡す時に落としそうになった、との実況の佐藤洋之アナウンサーの解説があった。大相撲は何が起きるか分からない。
豊昇龍の運動神経の良さ、貴景勝の集中した突き押し、霧島の冷静で匠な技は何処へ。「勝ち越し、優勝、横綱」への意識のせいか。大関は辛い。
阪神タイガースの岡田彰布監督が、選手を緊張させないために優勝を「アレ」と言い、リーグ優勝を飾ったのは素晴らしい。大相撲も優勝や勝ち越しがかかると緊張する力士がいるから、「アレ=優勝」を使わせていただき、「勝ち越し=コレ」にして、「稽古=ソッチ」と言い直す。師匠は、弟子を集め「ソッチを懸命にすれば、コレができ、やがてはアレも夢ではない」と話せば、緊張せずに力士本来の実力を発揮できるかもしれない。
3日目、前頭6枚目・竜電と前頭7枚目・王鵬との対戦で、王鵬が竜電の左の廻しを取って動きが止まった時、実況の三輪洋雄アナウンサーは上品に、「相手の体を持つような竜電」と言ったが、なんと竜電が王鵬の左の脇の肉をグッとつかんだのだ。さらに、竜電は右手を王鵬の背中に回して肩をたたき、上手を取った。この肩たたきを三輪アナウンサーは「フェイントをかけるような」と言った。
勝負は寄り倒しで竜電が勝ったが、正面解説の舞の海さんが、「肉をつかんでいましたけれど、これは反則ではない?」とたずねるように話しかけ、三輪アナウンサーは「足をつかんだり、腕をつかんだりすることがありますから。喉をつかむのは反則という禁止行為」と説明。しかし、「肉つかみ」がたびたび起これば、とんでもない実況放送になる。
実況アナウンサー「お互いに脇の肉をつかんだまま動きが止まりました。1分が経過しました」。
解説者「脇の肉ではなく、頭をつけてお腹の肉をがっぷりつかんだ方が良いですね」
となる。テレビを見ている人は「私は何を見せられているのだ」と呟き、ラジオを聞いている人は「こんな放送は聞きたくねえ」と叫ぶ。
肩たたきは、巻き替えようとみせるためにか、8日目に前頭13枚目・妙義龍が前頭17枚目・大翔鵬にして、勝っていた。