婦人公論

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2025年06月19日

鎌田實「死んでも畑仕事を続けたい」と手術を拒否し続けた80歳の男性。周囲から反対されるも最後には納得。患者、医者、家族、みんなのこころが一つになった結果…

うまいように死ぬ
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「畑仕事を続けたい」という望みに家族は大反対

解離性大動脈瘤はなんらかの原因で血管の壁に裂け目ができ、血管がコブのように膨らんでしまう病気です。安心して生きるためには、人工血管に置き換える大手術が必要です。

『うまいように死ぬ』 (著:鎌田實/扶桑社)

彼と何度も話し合いをしました。

彼は「手術は受けたくない」と言います。

家族も交えてさらに話し合いをしました。家族は迷いながら「おじいちゃんの命だからおじいちゃんが決めればいい」という結論になりました。

しかし「畑仕事を続けたい」というBさんの望みに、ご家族は大反対です。

農作業は力仕事なので、裂け目が広がるリスクがあるからです。

(写真:本社写真部)
77歳のいまも医師として、多くの患者と接している鎌田實先生。これまで出会った人々や自身の体験から「人は歳を重ねて迎える下り坂でこそ、上手な人生のギアチェンジができる」と感じるようになったそうです。そして若い頃にはできなかった「ちょうどいいわがまま」や「ちょうどいい堕落」ができるようになった延長線上に「ちょうどいい死に方」が待っている…といった先生の想いをまとめた『うまいように死ぬ』より今回は一部を抜粋、ご紹介します。

手術は受けない

「手術は受けたくない」「生きがいの畑仕事も続けたい」

そうはっきり主張したのは、解離性大動脈瘤(かいりせいだいどうみゃくりゅう)が見つかった80歳の男性Bさん。

ほかの病院で手術をすすめられましたが、納得できず、諏訪中央病院の内科外来に来ました。

きのこ採りが大好きで、たくさん収穫できたときには「先生、おすそ分け、うまいから食べてみろ」と言って、持ってきてくれました。

「畑仕事を続けたい」という望みに家族は大反対

解離性大動脈瘤はなんらかの原因で血管の壁に裂け目ができ、血管がコブのように膨らんでしまう病気です。安心して生きるためには、人工血管に置き換える大手術が必要です。

『うまいように死ぬ』 (著:鎌田實/扶桑社)

彼と何度も話し合いをしました。

彼は「手術は受けたくない」と言います。

家族も交えてさらに話し合いをしました。家族は迷いながら「おじいちゃんの命だからおじいちゃんが決めればいい」という結論になりました。

しかし「畑仕事を続けたい」というBさんの望みに、ご家族は大反対です。

農作業は力仕事なので、裂け目が広がるリスクがあるからです。

そこでとった作戦は…

僕はここでもBさんの意思を尊重しました。

その代わり、血管の解離が進まないように、上の血圧を120ぐらいまでに抑える作戦を提案。薬を飲みながら、減塩、野菜をとるという作戦です。

奥さんとみんなで隠し事なく話し合い、本人もご家族も同意してくれました。

そのうちBさんは大動脈瘤が広がって、反回神経というのどに行く神経が圧迫され、しゃがれ声になってしまいました。

それでもめげませんでした。

うまいように見事に生きている

諏訪中央病院の救急外来で入院をすすめられましたが、どうしても入院したくないと、翌日、僕の外来に相談に来ました。

本人はやはり入院したくない、死んでもやりたいことを続けたいと、いまの生活に満足しています。

奥さんも娘さんもニコニコしながら、「しょうがないわね。これがおじいちゃんの生き方だから」と納得しています。みんなの心がひとつになってきました。

こうして、畑仕事という生きがいを手放さずにすんだBさんは、病気と付き合いながら、ぴんぴん元気に13年、好きなように生きました。ついに93歳。

自分の時間と、自由な時間を生きているBさんは「死んでもいい」と言いながら、うまいように見事に生きています。

※本稿は、『うまいように死ぬ』(扶桑社)の一部を再編集したものです。

出典=『うまいように死ぬ』 (著:鎌田實/扶桑社)
鎌田實 鎌田實 医師、作家

1948年東京都生まれ。東京医科歯科大学医学部卒業後、諏訪中央病院へ赴任し、長年地域医療に携わる。チェルノブイリ、シリア、東日本大震災の被災地支援に精力的に取り組む。『鎌田式「スクワット」と「かかと落とし」』『鎌田式健康手抜きごはん』『医師のぼくが50年かけてたどりついた 鎌田式長生き食事術』著書多数

 

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