いまの高齢者の多くは元会社員

和田 話が少し逸(そ)れるかもしれませんが、私は植木等さんの大ファンでして。

若宮 そうなんですね。私も好きです。

『和田秀樹、世界のマーチャンに会いに行く』(著:和田秀樹・若宮正子/小学館)

和田 その植木さんの代表作のひとつに、『ニッポン無責任時代』(1962年公開)という喜劇映画があります。

植木さん演じる、お調子者の会社員の役名が「平均(たいら・ひとし)」というんですけど、これは、平均的日本人という意味でしょう。彼は昭和一桁の生まれで、本人いわく「三流大学の出」。その大学を出てホワイトカラーになります。

彼らの世代は、55歳定年が当たり前でしたので、彼が実在したとしたら、昭和60年(1985年)前後に定年退職しています。ということは、平成の世になって「高齢者」と呼ばれていた人たちの多くは、植木等演じる「平均」同様、ホワイトカラーの会社員だったわけです。

若宮 私が昭和10年(1935年)の生まれですから、植木さんの世代が少し上ですね。

和田 昭和34年(1959年)の会社員率が約50%らしいんですが、そのあと年々上昇を続け、平成5年(1993年)になると、80%を超えます。こうした数字からみても、いまの高齢者のほとんどは、元会社員といっても過言ではないでしょう。当然、コピー機やファクス、ワープロやパソコン……という技術の進歩を目の当たりにしていますし、実際に使ってきた世代です。

若宮 私も職場で、その変化を体験してきました。

和田 そういう人たちがですね、高齢者になったからといって「パソコンは触ったことがありません」「スマホは使えません」と毛嫌いするはずはありません。もちろん、中には苦手な人もいるでしょうが、大半はそうじゃない。むしろ新しく導入される機器に慣れ親しんできた人たちです。

10代、20代のデジタルネイティブ世代――生まれたときからスマホやインターネットに囲まれている世代に比べれば、高齢者全体のデジタル機器の利用率は低くて当然だと思いますが……。

若宮 近年の調査(内閣府2020年度「情報通信機器の利活用に関する世論調査」)ですと、70歳以上のスマホやタブレットの利用率は、よく利用している人、ときどき利用している人を合わせて、だいたい4割です。みなさんの印象だと、もっと少ないと思っているかもしれませんね。