廣瀬さん「動画でも『10分観ているのがキツい』と考える若者も増えている」(写真提供:Photo AC)
三省堂の「辞書を編む人が選ぶ『今年の新語2022』」の新語ベスト10の大賞に、タイパ(タイムパフォーマンス)が選ばれました。「時間的な効率」を意味するこの言葉は、「若い世代はタイパを追求する」という文脈で使われるそうです。そんな若い世代、特に「Z世代」と呼ばれる若者には「とにかく失敗したくない」という行動原理があると語るのはニッセイ基礎研究所生活研究部研究員の廣瀬涼さん。廣瀬さんいわく「動画でも『10分観ているのがキツい』と考える若者も増えている」そうで――。

イントロは飛ばしてサビだけ聴く

若者の間でイントロはおろか、Aメロ、Bメロも飛ばしてサビだけを楽しむ者が増えていることをご存じだろうか。

米オハイオ州立大学の大学院生であるユベール・レヴェイエ・ゴヴァンが、1986年から2015年までのビルボードチャートのトップ10に入った曲について、年代ごとの曲の構成や要素、タイトルなどの変化を分析したところ、1980年代はイントロが平均で約20秒だったのが、現在は約5秒にまで短くなっていることがわかった。

この背景にはサブスクの急速な普及があるといわれている。

音楽メタデータ会社「EchoNest」のデータサイエンティストであるポール・ラメールは、2014年に自身のブログで世界中の数百万Spotifyユーザーの数十億再生を分析し、スキップ率のみを抽出したデータを公開している*1。

ストリーミングでは一般的に30秒以上再生されないと「1再生」としてカウントされず、収益にならないといわれているが、ラメールによれば視聴者が曲を冒頭から聴いた場合、5秒以内で24.14%、10秒以内で28.97%、30秒以内で35.05%、曲をスキップしていた。

一般的なSpotifyユーザーが1時間で曲をスキップする平均回数は「14.65回」であり、4分に1回スキップする計算となる。

また、スキップ率を見ると10~20代が最も高く58%である一方、30代半ばになるにつれて減少していくが、40代後半から50代前半になると再び上昇する。

この理由についてラメールは、スキップ率はその人の自由時間の長さを表しており、10代の若者はストリーミング中の音楽選択に割ける時間が多いのでスキップ率が高いが、年齢が上昇するにつれて子育てや仕事のなかでストリーミングを利用しているユーザーが多く、音楽プレーヤーに気を配る暇がないと分析している。

あわせてSpotifyのアナリストであるクリス・タイナンは、40代後半のスキップ率が再上昇する背景に、子どもたちが親のアカウントを利用しているため、親が好んで聴いている曲をスキップしている可能性があるとも分析した。

*1 The Skip | Music Machinery https://musicmachinery.com/2014/05/02/the-skip/