「だから、今日みたいに取材がある日でも、終わったら昆虫標本づくりに励みます(笑)」(撮影:本社◎奥西義和)

人生は小さな必然の積み重ね

東大医学部助手になってすぐに起きた大学紛争で研究がストップ、解剖の仕事が不要不急とみなされたことも大きかった。こうした世間の動きに幼い頃からなじめず、「よそ者」意識が芽生え、どうして折り合いをつけられないのか、ずっと考えてきた。

自覚はないけれど、このしつこさは生まれつきかな。解剖でも3000体超の死体を見てきました。同じようなものでは、と思う人もいますが、そうじゃない。解剖すると、身体にはそれぞれの人たちが生きてきた歴史が体つきなどに刻まれていることに気づく。人生は些細な違いの寄せ集め。そう思っています。

いろんなものごとを"解剖"しながら考えたことをまとめたのが『形を読む』(1986年)や『唯脳論』(1989年)などに始まる著作です。多くは頼まれた仕事で、『バカの壁』(2003年)の題名は編集者がつけました。

放っておくと人が歩くときに転ぶ穴を埋めるように、社会のニーズに応えることが仕事だと思っている。だから依頼は基本断らない。に後悔はありません。

ただ、穴ばかり埋めていると、好きな虫の時間がなくなる。だから、今日みたいに取材がある日でも、終わったら昆虫標本づくりに励みます(笑)。