東京大学名誉教授で医学博士の養老孟司さん。著書『バカの壁』は450万部を超えるベストセラーに。今年で86歳、これまでを振り返り「人生は、なるようになる」との結論にたどり着いたといいます。養老さんが「自分の意志で動いた記憶がほとんどない」と話す幼少期の思い出とは――。
欧米流とまったく逆の考え方
なるようになる。本当に、そう思っています。人生、なるようにしかならない。そうもいえますが、それでは、なんか諦めたような感じになってしまう。なるようになる、はゆるい感じですね。
幼い頃から、自分の意思で動いた記憶がほとんどといっていいくらい、ない。いくら「自由にしていい」と言われても、「嘘つけっ」て感じる。人生はくじみたいなもので、選択できる範囲はおのずとかなり限られるように思ってきた。医学部に進学したのも解剖学の道に進んだのも、なりゆきです。煮詰まるまで待って、しょうがねえな、もうなんかするしかないな、と思うまで自分からは動かない。欧米流の「自分の意思で自分の道を決める」、とはまったく逆ですな。
戦争で振り回されたでしょう。あれは大きいよ。なんでも上から降ってきた。焼夷弾も命令も……。戦後は教科書に墨塗りまでさせられた。
敗戦後、教育の民主化が図られ、国家主義や戦意を鼓舞する教科書の記述を、墨で塗って抹消した。