『インドの正体』(中公新書ラクレ)の著者、伊藤融氏
インドといえば「ヨガとカレーとガンジーの国」というイメージが根強くありますが、いま「人口世界一」「IT大国」「最大の民主主義国」と、さまざま注目を集めています。大ヒット映画『RRR』も圧倒的なアクションや劇中歌「ナートゥナートゥ」の高速ダンスで話題となり、記憶に新しいところ。
ところが、近年、日本で広がる礼讃調のインド報道に対して、インドをはじめとした南アジアの政治・外交・安全保障問題の専門家である伊藤融先生は危うさを感じているそうです。文化・教育から政治・外交まで幅広くお話を伺いました。

日本にとって遠い存在だったインド

――インド映画『RRR』は、日本でも大ヒットしました。ビジネス系の週刊誌でも、映画のようなソフトパワーや教育力など幅広い関心で特集が組まれています。
また書籍でも、貴著『インドの正体』をはじめインドをテーマにした出版があいついでいますね。このような注目の高まりをどのように見ていますか?

日本人にとってインドという国は、長い間、遠い存在だったと思います。もちろん、仏教発祥の地だという親近感や、「インドに行けば人生観が変わる」というような憧れみたいなものはありました。それでも、同じアジアといっても、中国や韓国、東南アジア、さらに西アジア(中東)に比べてもと、観光客の行き来も少ないし、経済関係も薄くて、本当のところは関心が高かったとはいえません。

ところが、今世紀初めに中国のパワーが大きくなって日本の経済力をあっという間に追い越し、軍事的にも強大になって、尖閣はじめいろんなところで自己主張を強め始めた。そんななかで、中国を後から追いかけてくる「民主主義」の大国、インドにがぜん注目が集まるようになったのだと思います。

 

首都デリーの衛星都市グルグラムにあるサイバーシティ。多くの日系企業が進出している(著者撮影)