常設の食の博覧会場

デパ地下というのは、いわば常設の食の博覧会場である。昔であれば、レストランや食堂の店頭に飾られていた蝋細工を真剣に見つめつつ、視覚情報から味覚の想像を膨らませるというあの感覚を、デパ地下では思う存分に楽しむことができるのである。

ちなみに年末年始に日本に滞在していたイタリア人の夫も、デパ地下に取り憑かれている一人である。

ちなみに私も仕事で関西方面へ行くことがあると、阪急うめだのデパ地下にある、甘いもの売り場に足を運ぶ(写真提供:Photo AC)

「散歩してくる」と出かけては、数時間後に二子玉川のデパートの袋を提げて帰ってくる。時にはケーキ、時には魚の煮付けや焼き鳥。イタリア風の惣菜に、果物と生クリームの挟まったサンドウィッチ。

「ねえ、この辺の人たちは家で料理なんかしてないんじゃないの」と問うてくるが、一人暮らしならまだしも、家族で毎日デパ地下のお惣菜なんか食べてたら破産しちゃうよ、と答える。デパ地下のお惣菜は確かに安くはない。

夫が買ってきた、小さな容器に入ったラタトゥイユが500円。イタリアで500円分の野菜を買えば、何皿分ものラタトゥイユが作れるだろう。

でもデパ地下は、そのように値段が多少高いけど、滅多に作りも食べもしない惣菜を好きな分量だけ買い求めるという、ささやかな贅沢を楽しむ場所でもある。和洋中、エスニック、なんでも取り混ぜて、いろんな味を少しずつ楽しみたい。イタリアみたいに食に保守的な国では、こんな買い物のスタイルがそもそも定着するとも思えないわけだが、それでもデパ地下を訪れて感激するイタリア人を私はたくさん見てきている。