「なに!? この信じられない空間は……」
20年ほど前、11名のイタリアの親戚と友人で構成されるオバちゃんグループ(平均年齢65歳)を引率して日本を歩き回った時も、彼女たちが最も興奮したのがデパ地下だった。
「なに!? この信じられない空間は……」と瞳孔が開き、人の声など耳に入らないトランス状態に陥ったオバちゃんたちは、色とりどりの華やかなお菓子から美しくレイアウトされたお惣菜、パンや野菜や果物が並べられた地下空間を夢遊病にでもなったかのように彷徨(さまよ)っていた。そして皆、頭の中で同じことを考えていた。
「地表の下と言えば普通は地獄なのに、ここはまるで天国じゃないか!」
そして活気に満ちた販売員と、買い物に余念のない主婦たちのパワーにすっかり圧倒されていた。彼女たちはイタリアに帰った後も、集まる機会があればこのあまりに印象的だったデパ地下の話になる。
「あの地下天国は素晴らしかったわねえ、イタリアの食材もお惣菜も売っていたけど、悪くなさそうだったしねえ」
「あそこで買ったパンは世界一美味しかったわ」
「ガラスケースの中に並べられたお菓子の美しかったこと!」
「地下天国、最高よねえ」
オバちゃんたちの思い出話は尽きることがなく、今度日本へ行くことがあったら、もうお寺や名所旧跡巡りなんかいいから、その分2日間くらいゆっくりデパ地下だけを探索したいもんだわ、などと盛り上がっていた。