『暗いところで待ち合わせ』

この時期の私は、本をまともに読むことさえできなくなっていた。かろうじて仕事には行く。それ以外は死んだように眠る。もしくは、取り憑かれたように街を彷徨う。おそらく当時の私は、能面のような顔をしていただろう。だが、彼が置いていった本のタイトルに無性に惹かれた。

『暗いところで待ち合わせ』――乙一氏による長編小説のタイトルを目にした時、明るい場所で生きられない自分を肯定してもらえたような気がした。

序盤の一節に惹かれ、そこから先は物語の海を漂うように、ゆっくりと体を浸した。“溺れる”というのとは、少し違う。ただ、ちゃぷちゃぷと音を立てて心が沈んでいくのを、外側から見ていた。強い引力を放たずとも、人の心を捉えて離さない。そういう物語があることを、この日はじめて知った。

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“だれかに出会って、喜んだり悲しんだり、傷ついたりして、また別れる。それの繰り返しは、とてもくたびれそうだ。それならいっそ、最初から一人がいい。”

物語の主人公・ミチルは、視覚障害者だった。障害を理由に心を閉ざし、外に出る恐怖に怯え、家の中で体を丸める彼女の姿が、己の孤独と重なった。それはまったく同じ形ではなかったが、自分とどこか共通するものがあった。何より、私もミチルと同じく、あらゆることにとてもくたびれていた。