謙虚に生きるということ

たとえばこの中で、染織・紬織の人間国宝・志村ふくみさんについて紹介されています。その志村さんの言葉がすばらしい。

<空や海、虹や夕焼けの色は、ものに付いているものではないから手で触れることはできません。葉っぱや大地は色がものになりきっています。私の仕事はこの中間にあってものの中にある色が溶けこんできた液体を用いて糸を染めるのです。色が出てくる時に、パッと手を添えてそのお手伝いをしているのです。出しゃばると色はそっぽを向いてしまうんです>

『人生最後に後悔しないための読書論』(著:齋藤孝/中公新書ラクレ)

万物の霊長などと偉ぶらず、あくまでも自然界の一員として謙虚に生きることで、地球上にあふれる生命の力を感じ取ることができるということでしょう。志村さんはいつも、植物の「命をいただく」「色をいただく」という言い方をされているそうです。

実際、染織の世界というのは、たいへん奥深いものらしい。同じく染織家・吉岡幸雄さんの著書に『源氏物語の色辞典』(紫紅社)があります。困難と言われていた、現在は存在しない平安時代の色の再現を吉岡さんが成し遂げたのですが、それを写真で紹介しているのがこの本です。「源氏物語」の世界がどんな色で彩られていたのか、それを知るだけでもワクワクしてこないでしょうか。