ものは考えようだと教えられて
まどさんの詩といえば、私が好きなのは「トンチンカン夫婦」という作品です。これは『百歳日記』(NHK出版、二〇一〇年所収)に収められています。
<満91歳のボケじじいの私と満84歳のボケばばあの女房とはこの頃
毎日競争でトンチンカンをやり合っている
私が片足に2枚かさねてはいたまま
もう片足の靴下が見つからないと騒ぐと
彼女は米も入れてない炊飯器に
スイッチ入れてごはんですようと私をよぶ
おかげでさくばくたる老夫婦の暮らしに
笑いはたえずこれぞ天の恵みと
図にのって二人ははしゃぎ
明日はまたどんな珍しいトンチンカンを
お恵みいただけるかと胸ふくらませている
厚かましくも天まで仰ぎ見て>
老いて失敗が多くなることも、こうして笑い飛ばせたら前向きになれます。ものは考えようだということを、あらためて教えられます。
※本稿は、『人生最後に後悔しないための読書論』(中公新書ラクレ)の一部を再編集したものです。
『人生最後に後悔しないための読書論』(著:齋藤孝/中公新書ラクレ)
年を重ねた今だからこそ、わかる本がある。何歳からだって読書を始めれば、新たな「ステージ」へ。博覧強記の齋藤教授が、文学や哲学からマンガまで古今東西の作品をもとに、人生100年時代を充実させるヒントを伝授。文豪・谷崎潤一郎の「変態」な記録、戦う美しい高齢者を描く『老人と海』、江戸時代の「健康本」、世界「三大幸福論」の魅力などなど。挫折した本に再挑戦するコツなどをまとめた「ライフハック読書術」も充実。老後の生活を支えるのは「知性」だ。齋藤式メソッドを身につければ、若年層を導く安西先生のような「老賢者」にあなたもなれる!