イラスト:やすだゆみ
2023年も残すところおよそ1ヵ月。そこで今年4月から9月に配信した「70代」をテーマとした記事から、あらためて読み直したい「編集部ベストセレクション」を紹介します。
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厚生労働省が発表した令和3年の人口動態統計によると、出生数は 81 万 1622 人で、前年より2万 9213 人減少し、明治 32 年の人口動態調査開始以来最少となりました。2人以上きょうだいがいる割合についても、1997年に85.9%でしたが、2015年は75.2%にまで減少(国立社会保障・人口問題研究所が発表した出生動向基本調査より)。人口が減る中、きょうだいどうしで支え合っていけるかと思いきや、人の本性をあぶりだす〈お金〉に振り回されることはいつの時代も変わらなくて…。池崎利香さん(仮名・東京都・主婦・40歳)は父の試算を狙う叔父叔母たちに悩んでいて――。

弟と妹たちに会社の金を盗まれた

私はいま、父のきょうだいのお金の無心に苦しみながらも、父の資産を守るべく彼らに対峙する日々を送っている。

父は、弟2人と妹2人がいる5人きょうだいの長男だ。弟たちは大学を卒業後、商社と銀行にそれぞれ就職するも、自由気ままな上の弟はすぐに会社を辞め、下の弟は30代で脳梗塞を患って休職。その後、もともと仕事ができなかったこともあり依願退社に追い込まれた。

主婦になった2人の妹のうち、長女はブランドものが大好きな派手好みで、次女は習い事三昧の日々を送っていた。癖の強いきょうだいたちに対して私の母は一線を引いていたため、盆と正月の行き来もない関係だった。そう、父を除いては。

父は大学を出た後、23歳で鉄鋼関係の会社を創業。長男の責任感からか、仕事を失った弟たちを雇い、「家計のために働かせてほしい」と懇願する妹たちに経理を任せていた。

そんな父も70歳となり、リタイアして隠居生活を楽しむのだろうと思っていた矢先、離れて暮らす私に母から、父が交通事故に遭ったという衝撃的な電話がかかってきた。

医師の「ひどい脳挫傷で今夜が峠です。元の生活に戻るのはまず無理でしょう」という言葉に泣き崩れる母の横で、私は涙が出なかった。なぜなら、心配事があったからだ。

実は数ヵ月前、「会社の通帳から金が引き出されているが、使途がわからない」「会社のお金がほぼ残っていない」などと、不可思議なお金の動きについて、父から相談を受けていたのだ。どうやら父の弟と妹たちがグルになって、会社のお金に手をつけていたらしい。

その話を聞いた時、私は父に「実印と通帳、カードを叔母さんたちから取り上げて」とアドバイス。心優しい父は実行できただろうか……。早速、父の部屋の大捜査にかかった。必死に探すこと2時間。引き出しの奥に押し込まれた箱の中に、印鑑、通帳、キャッシュカードを発見し、ほっと胸をなでおろした。