縁を切りたいが逃げるわけにはいかない
私たちから連絡をせずとも、父の緊急入院は叔父叔母たちの知るところとなった。最初に電話をしてきたのは上の叔父だった。
「会社の車をぶつけたから修理したいんだけど、社長の印鑑が必要なんだよ。兄貴はいつ出てこられるの?」
ICUに入っていると伝えると、「それだと修理に出すのが遅くなるな……」と言うではないか。さらに電話の向こうから、「あの車、修理したあともらえないの?」と叔父の妻の声まで聞こえてきた。この人たち、1ミリも父のことを心配していない。
次の連絡は上の叔母からだった。「会社のキャッシュカードをすぐに持ってこい」と、なぜか命令口調。お金を使いこんでいる当人に渡すわけもなく、「いま、お金を動かす必要はないのでは?横領を疑われますよ」と冷静に伝えると、電話は一方的に切られた。
それからほどなくして、下の叔父から「いつもお兄ちゃんからお見舞金をもらっているんだけど、今月分はどうなるの?」という連絡がきた。実の兄が生死の境をっているというのに、なぜ自分のことしか考えられないのだろうか。本当に腹の立つ奴だ。
そして最後は末の叔母。終始丁寧な口調だったが、一番おかしな主張だった。父の個人口座に入っているお金はもともと両親のものだから、私たちきょうだいのものでもある。だから、残さず持ってくるように、と言う。「もう何十年も前に遺産分割は済んでいますよね?おっしゃる意味がまったくわかりません」とだけ言い、受話器を置いた。
この人たちは生来の守銭奴だ。お金を奪い取れるなら、理由などなんでもいいのだろう。