「名前を呼ぶとその人の顔が浮かんで、心がポカポカします」

この世を去った人にもご挨拶

大好きな人との別れは本当につらい。でも、いっときの胸がギューッとする悲しみが去ると、私は「あの人はもう二度と死なない。痛い注射も、気に入らない入院もしなくていいんだわ」と考えるようにしています。

それを教えてくれたのは、私がコミュニティカレッジで教えている絵日記講座の生徒さん。妹が危篤という電話を受けて急いで帰る私を追いかけてきて、「セツコ先生、妹さんはまもなく美しい世界に行きます。もう苦しまなくていいんですよ」と懸命に話してくれたのです。

それまで私は、会えなくなって悲しいとか、もっとできることがあったんじゃないかと、「自分のこと」ばかり考えていました。でも亡くなった「相手のこと」を考えたら、もうすべてから解放されて苦しむ必要はない、楽になったんだからそれは嬉しいことじゃないかと。

逝ってしまった家族や友達の名前を書いた紙をキッチンに貼って、朝起きたら順番に挨拶をします。学校の先生や和田誠さんとか仲良しの名前も加わっていくから、全部読みあげるとかなり忙しいの(笑)。

名前を呼ぶとその人の顔が浮かんで、心がポカポカします。「私もそのうち行くからよろしくね」って。だんだん向こうの人数が増えてきて、にぎやかな世界になっているはず。そんなみんなに、お墓のなかから「ボンジュール」って挨拶するのが楽しみよ。