前に立つ人間が一番注目されていなくては
そんな彼が、なぜわざわざコンクールを受けようと思ったのか。その理由についてこう話していた。
「一つは、目指すところがまだ上だったこと。子供の頃、日本人が2人入賞した2005年のコンクールのドキュメンタリーを見て、オーケストラと演奏する姿に憧れ、自分もあの舞台に立ちたいと思いました。もう一つの動機は、自分のオーケストラの存在です。仲間がコンクールを通して成長する姿を目の当たりにして、自分もそうありたいと思いました。そして、このオケを海外からもオファーのくる団体にするためには、前に立つ人間が一番注目されていなくては、と思ったところもあります」
次のコンクールに挑戦しようと決めた6年前から準備を始め、過去のデータを分析してレパートリーを決めるなど、戦略を練った。またコンクールが始まってからは、審査員席の近くに座って音響を確認、研究したという。彼が本来持つふくよかな音、思い切りよく歌う表現力に、努力の成果が相まって、見事入賞を勝ち取った。
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ショパン国際ピアノコンクールは、全世界の若いピアニスト、とくに開催国ポーランドや同コンクールの人気が高い日本のピアニストたちにとって、憧れの舞台だ。スポーツ選手にとってのオリンピックと違うのは、その舞台に立つこと、さらに入賞や優勝は、あくまで音楽家人生において優位なスタートラインに立つことしか意味しない、という点である。
幼少期から練習と勉強を続け、音楽で生きていきたいという想いを胸に研鑽を積む彼らは、自分の音楽を世界のより多くの聴衆に知ってもらうきっかけを求め、コンクールに挑む。その意味で、重要なのは入賞することではなく、その後どう歩んでいくかということになる。スムーズな船出を後押ししてくれる機会の一つが、大きなコンクールでの成功なのだ。
5年に1度、ショパンの祖国ポーランドの首都ワルシャワで約3週間にわたって行われる、ピアニストの登竜門といえるコンクール。課題曲はショパンの作品のみ。予備予選、3度の審査、ファイナル(本選)を経て優勝者が決定される(条件によって予備予選免除あり)。過去の主な優勝者に、マウリツィオ・ポリーニ、クリスティアン・ツィメルマン、スタニスラフ・ブーニンなどがいる