「なんで、駒吉神社を訪ねたの?」
 その質問には、日村ではなく阿岐本がこたえた。
「知り合いから、露店商についての話がありまして……」
「知り合いって、誰?」
「それは、その方に迷惑がかかるといけないので、申せません」
「あ、そういうのだめだよ。ちゃんと話してくれなきゃ」
 警察は、根掘り葉掘り尋ねる。そして、嘘やごまかしを許さない。「露店商の話をしたのは、誰?」
「多嘉原という方です」
「多嘉原なに?」
「多嘉原義一です」
 若い方の警察官がメモを取っている。
「それで……」
 質問が続く。「露店商のどんな話だったの?」
「昔の祭は今と違って露店商もたくさん出ていてよかったと……。まあ、そういう話です」
「それが、駒吉神社とどういう関係があるんだい?」

 田代が言った。
「いい加減にしてくれ。うちの客だぞ」
 すると、警察官は田代を睨(にら)んだ。
「あんた、へたすると騒音規制法で訴えられるぞ。そうしたら、そんなでかいことは言っていられなくなるからな」
 警察官が一般市民を恫喝(どうかつ)している。
 へたなヤクザよりタチが悪いなと、日村は思った。
 田代が黙ると、警察官は阿岐本に視線を戻した。
「住所を教えてくれる?」
 阿岐本は素直にこたえる。
 それから、警察官は田代に念を押すように言った。
「強要とか恐喝とかのトラブルじゃないんだね?」
「違うと言ってるだろう」
「では、本職たちはこれで。何かあったら、すぐに通報するように」
 警察官たちが引きあげると、田代が舌打ちした。