「やつら、区役所と結託して、この寺から鐘をなくそうとしているんです」
「まあ、公務員同士ですから……。しかし、結託ってのは言い過ぎじゃないですか」
「ふん。やつら何か企(たくら)んでるんだ。あなたがたが来たとたん、斉木が顔を出したでしょう。そして、その斉木からの通報を受けて二人の警察官がやってきた。斉木が来たのは偶然じゃないですよ」
「見張られていたと……」
「斉木本人が見張っていなくても、仲間の誰かが見張っています」
「仲間……?」
「斉木にクレームを言った近所の住人ですよ。見張っているというか、気になったことを斉木に知らせるんですね」
「昔は、町内の噂(うわさ)ってのは、あっという間に広まったもんでしたが、今もそうですか」
「その頃は、隣近所みんな顔見知りで、お裾分けとか、回覧板とかで住民同士の付き合いもあった。だから、隣人の様子が気になっていたわけですよね。でも今はね、相互監視態勢ですよ」
 また話が大げさになってきたと、日村は思った。
 阿岐本が聞き返した。
「相互監視態勢ですか」
「この辺は古い住宅街でしたがね、相続税とかの問題で、古い家がどんどんアパートやマンションになったんです」
「ああ、東京ではよく見かける光景ですね」