阿岐本が言った。
「いろいろとうかがえてためになりました。ぜひまた、お話を聞きに寄らせてください」
「ええ、いつでも歓迎ですよ」
本堂をあとにすると、田代も外に出てきて見送ってくれた。コンクリートの山門をくぐり西量寺を出ると、稔が車を目の前に着けた。
乗車すると、阿岐本が言った。
「田代さんは、いろいろと溜まっているようだなあ」
鬱憤が溜まっているということだ。たしかに、前回よりも饒舌(じょうぜつ)だった。不満のはけ口を求めていたのかもしれない。
「神主もそうでしたが、田代さんは自分らを嫌っていないようですね」
ヤクザを嫌がらない一般人は珍しいと思ったので、日村はそう言った。
「宗教家ってのは、俗世間を超越したようなところがあるからな」
「田代さんはけっこう俗物っぽかったですよ」
「そうあってほしいという話だ。昔の偉い坊さんの話だがな……」
「はい」
「時の天皇にお目通りがかなうということになったが、着る服も指定され、隔たった部屋から御簾(みす)越しに会えと言われた。これに不服だったその坊さんは、袈裟(けさ)を着てじかに拝謁することを求めた。天皇はそれを許可して、会ったときにこう言った。仏法不思議、王法と対座す。すると、その坊さんは堂々とこう言った。王法不思議、仏法と対座す……」
「はあ……」
「何のことかわからねえか。まあ、坊さんはそれくらい超然としていてほしいって話だ」