「親から受け継いだ家を維持できない税制ってのもどうかと思いますけどね。だから、うちの檀家も減る……」
「もともと地元の人ではない、新しい住民が増えたってことですね」
「そうです。鐘がうるさい、子供の声がうるさいって言ってるのは、たいていマンションやアパートの住人らしいです」
「なるほど……」
「そういう連中は、隣に住んでいる人が何者か知らないことも多い。だから不安になって監視するんです。互いに監視し合って、何か気になることがあったら、区役所に苦情を言ったり、警察に通報する」
「監視というのは、そういうことですか」
「なんかねえ、ここは昔はのんびりした住宅街だったんですけどねえ。三世代の家族がたくさん住んでました。住民の人と境内や本堂で、こうして世間話をすることも多かった……。今じゃそういうこともあまりないですねえ」
「新しい住民が増えるのは悪いことばかりじゃないでしょう。新陳代謝っていうんですか? 新たな刺激もあったりするんじゃないですか?」
「どうでしょうね。新たな住人に期待するのは、若い活力でしょう。子供がたくさんいる地域は未来を感じますよね。でも、このあたりには子供がいない家庭が多いんです。独り暮らしが増えましたし、夫婦でも子供がいないところが目立ちます。少子化ですよ。古い住宅街ですらこうなんですからね。この国は滅びますよ」