義理人情に厚いヤクザの親分・阿岐本雄蔵のもとには、一風変わった経営再建の話が次々舞い込んでくる。今度は町の小さなお寺!? 鐘の音がうるさいという近隣住民からのクレームに、ため息を吐く住職。常識が日々移り変わる時代のなか、一体何を廃し、何を残すべきなのか――。


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「鐘のことというのは、除夜の鐘のことですか?」
 阿岐本が尋ねると、田代が言った。
「それだけじゃなくて、正午と夕方に鳴らす鐘ですね」
「それもやめろと……」
「苦情なんて言ったもの勝ちです。役所がそれを受け付けたら、あとは杓子(しゃくし)定規な対応ですよ。連中は、強硬手段を取るわけじゃないが、その代わり諦めない」
「なるほど……」
「鳴らさない鐘をぶら下げていても仕方がない。処分するつもりなら、相談に乗ると、斉木は言うんですがね……」
「処分……?」
「清掃局で廃棄処分にすると……。冗談じゃない。鐘は法具で、寺の立派な財産なんです。それを斉木は、ただの金属の塊としか見ていない」
「価値観の違いですなあ」
 そのとき、戸口のほうからまた声がした。斉木が戻ってきたのかと思ったら、そうではなかった。
 制服を着た警察官が二人いる。
 田代が怪訝そうに言った。
「何です、警察まで……」
 年上のほうの警察官が言った。
「斉木さんから聞きましてね。西量寺にヤクザがいると……」
「なんだ」
 田代が言う。「いちゃ悪いのか」
 警察官がこたえる。
「何か強要されたりしていませんね?」
「ばかを言うな。世間話をしているだけだ」