夫婦のベッドの境に、引き戸をつけた例(撮影:本社写真部)
年齢を重ねた夫婦がぶつからずに暮らせる家には、ちょっとしたコツがあります。住み慣れた環境は変えず、リフォームでいまの間取りを見直してみませんか。一級建築士の水越美枝子さんに聞きました。(撮影=本社写真部)

妻の「居場所」も必要

新築・リフォームに限らず、お子さんが独立したあとに、シニア世代から設計依頼を受けることが多くなりました。住まう人数が夫婦2人きりになり、どちらかが定年を迎えて自宅で過ごす時間が長くなれば、それまでと生活スタイルが大きく変わることになります。

そんな転換期にさしかかったご夫婦に間取りを提案する際、一番大切にしているのは「居場所づくり」です。

この時、夫の居場所をつくることを真っ先に意識される方が多いのですが、同様に妻の居場所もつくったほうがいい。それまでリビングやダイニングを自由に使ってきたとしても、もうそこは妻だけのスペースではなくなるからです。

リビングやダイニングといった共有スペースとなる場所のほかに、家の中できちんと個人の場所を確保する。実はこれ、どんなに仲の良いご夫婦や親子でも、必要なことだと思います。食事やお茶の時間、テレビを見る時などは一緒に過ごす。でも一人になりたい時は離れる。きちんと住み分けて、家で過ごす時間が互いにストレスにならないようにすれ違うことは、卒婚世代の知恵でもあるでしょう。

また、家を出たお子さんが家族を連れて遊びにくるようになれば、リビングやダイニングは大人数でくつろげる空間にする必要があります。さほど遠方に住んでいなければ泊まらずに帰るケースもあるので、子ども部屋を一室残しておくよりは、リビングやダイニングを広げるのも一つの方法。こうしたスペースは個人のものを置かず、常にすっきりとした空間を保ちたいですね。

ここにご紹介するリフォーム実例のお宅は、竣工から何年経っても写真の通りきれいなままです。でもリフォーム前から片付いていたお宅は少なくて、むしろどうしようもないほど散らかっていました。というのも、家が片付かない原因は、その動線にあることがほとんどだからです。

ある時、相談にいらしたご夫婦に「これじゃあいくら頑張っても片付かなかったでしょう」と言ったら、泣き出してしまった女性がいらっしゃいました。「片付けが下手」と20年以上も夫から言われ続けて、ずっと自分を責めていらしたそうです。同席していた夫も、大いに反省している様子でした。

このように、定年前後の年齢はこれまでの暮らしを夫婦で見つめ直す絶好のタイミング。あなたも夫との最適な距離をみつけませんか。