「過去にできたこと=今もできる」ではない
久保 過去にできたことでも、逆にそのしんどさを克明に思い出しちゃって、「もう同じことはできない」って諦めがちなんだよね。
能町 過去にそんなしんどい思いをしたんですか?
久保 たとえば私、昔はエリヘル(*)だったけれども、途中で「私、そんなに健康になって長生きしたいの?」という気持ちになって、やめちゃったんだけど。
*2019年の夏から始めたデトックスプログラムにより、健康に対する久保の意識は爆上がり。高校時代の体重まで戻った当時の久保は「エリートヘルス嬢」を自称していた。
能町 もう今はやめちゃってるんですか?
久保 もう全然。腸に優しいことなにもしてない。
ヒャダ あんなに腸にこだわってたのに。
久保 たくさん食べてるわけじゃないけど、お菓子を食べるようになって……まあタバコ覚えたみたいな感じ? お菓子の味を覚えて、着実に体重は増えていってる。だからといって、「また過去と同じことをやってデトックスして、1キロでもいいから痩せよう」という気持ちになるかというと……「あのとき、しんどかったなあ」って。「あのときできたことが、自信に変わってないんだな」と気づいて、ハッとしちゃった。
ヒャダ 「あのときのつらいことを二度としたくない」っていう気持ちが勝つんですよね。年齢的なものもありますよ。僕たち全員、あのときより歳取ってますし。あのとき頑張れてても、いま頑張れない自分はいますよ。全部歳のせいです。
久保 もしかしてこれはこじらせじゃなく…………老い(笑)?
能町 老いです(笑)。
──でも「頑張っている」というのは、「ちょっと無理している」ということでもあるから、ずっと継続はできないですよね。頑張りはどこかで終わりを迎える運命にある。
久保 続けられるのって、運なんですよね。努力によって続けられる・続けられないというのもあるんですけど、そこはけっこう運じゃないかと最近は思ってる。
能町 エリヘルをやってたときに、日々体重が減るのは快楽じゃなかったですか?
久保 快楽ではあったんですよ。「お腹空いてることは、自分の健康にいいことだ」って思えてたし。でも今は犬の散歩しなきゃいけないときに、腹減ってるとマジ動けねえっていう。
一同 ああ~。
能町 それはたしかにそう。それは大きいわ。
久保 完全に「顔が濡れたアンパンマン」みたいになるんですよ。
ヒャダ ほんとにそう。「お腹が減って力が出ないよぉ~」。
久保 犬の世話してると、朝ごはん食べてる時間がなくてフラフラ、みたいな。まあそれをちゃんとできてる人もいるんですよね。
能町 でも大変なのは大変ですよ。
久保 こうやってしゃべったあとも、やっぱりめちゃくちゃお腹空くし。そう考えると私、なにを続けられるんだろう? 続けられること、どんどん減ってくのかなあ。絵を描くのも、そんなに楽じゃなくなってきてるし。
──体力のほう? 集中力のほう?
久保 集中力や老眼もあるんですけど、やっぱり作品をひとつ、人に見せられるまで仕上げなきゃいけないというのは……特に背景も込みで描きながら週刊連載をやってた頃の精度はもう……。あの頃はアシスタントがいる前提で回していたところがあったので、もし自分一人だけで描くのを想像するとしんどい、と思うようになって。
能町 さすがに週刊連載を一人でやるのは無理ですよ。
久保 やり続けられる人はすごいよ。今も新しくマンガ家になろうと頑張ってる人はみんなえらい。
能町 じゃあ今はなにが楽しいですか?
久保 けっこう前にあれやめちゃったんだよね、キャンディークラッシュ(スマホのパズルゲーム)。
能町 ああ、中毒になってたアレ。
久保 あまりにも課金するタイミングが多すぎて、完全にアプリ消したんですよ。
能町 いや、よくやめましたよ。
久保 その代わり、LINEバブル2を……。
一同 (笑)
能町 あんまり変わってなかった(笑)。
久保 でもそれは課金しない範囲でやれる部分が多くて、そこはいいかなって。ただ、しんどくてテトリスをやるようにLINEバブルをやってる自分に、「ああ、時間を無駄にしてるな……」って感じる。
能町 じゃあそれは楽しくはないですね。
ヒャダ (飼っている)犬は?
久保 犬はかわいいんですよ。かわいいけど世話は大変だから、なにかの事態で2匹目を飼いそうになったときに、1匹目のしんどさを思い出して飼わないんじゃないか、とかちょっと思ったりしちゃうよね。今はできてるけど、同じことをもう1回できる自信がない。なんだろう、最近すぐそういうこと考えちゃう。車の運転もなんとか免許取ったけれども、もう1回、車の運転をやりはじめることに対しての恐怖心がハンパないっていう。
──ずいぶん気力が弱ってますね。
能町 やっぱりカウンセリングがしばらくなかったからかな?
ヒャダ そうですね。我々のカウンセリングが。