思えば、私が保育士をやりながら「ファミリー・サポート」(行政が行う会員制子育て支援サービス)に登録して地域のお子さんを預かりたいと言ったときも夫は反対するどころか、一緒に子どもの世話をしてくれました。

何も言わなかったけど、もしかしたら、彼も自宅を地域に開放し、他人の子どもを預かることに生きがいや喜びを感じていたのかもしれません。

ファミリー・サポートといえば、忘れられない出来事があります。あるご夫婦が生後2ヵ月の赤ちゃんを連れてきたときのこと。産まれて間もない頃はおうちにいたほうがいいという思いもあり、お断りするつもりでお話を聞いていたのです。

そしたら、ご主人のほうが突然、「子どもを預けるなんて育児放棄ですよね」って言ったの。あまりに時代錯誤で一方的な物言いにカチンときて、「短時間ならお預かりできますけど」って引き受けちゃった。失敗したと思ったけど後の祭り。家の奥から、夫の「あーあ」というため息が聞こえてきました。

当時はまだ、イクメンなんて言葉もなかった時代。こんなふうに、ちょっと預けるだけでも母親を責める人がいたの。それが、どうしても許せなくてね。保育園にお迎えに来るお母さんが、子どもを2人、3人連れて、人数分の大荷物を持ち帰る背中を見ては胸が痛んだものです。

いつか、お母さんたちがゆっくりできる居場所を作りたい。そんな気持ちがどんどん大きくなっていきました。「ゆめのき文庫」が芽吹く根っこは、保育士時代に心の中で少しずつ育っていったんです。