事務所に到着したのは、午後二時頃のことだった。阿岐本が奥の部屋に行き、日村は留守中の報告を聞こうと思った。
 そのとき、インターホンのチャイムが鳴った。応対した真吉が言う。
「甘糟(あまかす)さんです」
 甘糟達男(たつお)巡査部長は、北綾瀬署のマル暴刑事だ。日村は言った。
「お通ししろ」
 入ってきたとたんに、甘糟は言った。
「ちょっと。中目黒署管内で、いったい何やってんの?」
 西量寺にやってきた警察官が署に報告して、そこから北綾瀬署に知らせが行ったのだろう。
 日村はシラを切ることにした。
「何の話でしょう」
「目黒区に行ってたことはわかってるんだからね」
「ほう。誰から聞いたんです?」
「そんなこと、言えないよ」
「どうして言えないんです?」
「そりゃ、職務上の秘密だからだよ」
「言っちゃまずいことなんですか?」
「別にまずくないけどさ……」
「じゃあ、教えてください。誰から、どういうふうに聞いたんですか?」
「どういうふうにって……」
 次第に甘糟はしどろもどろになる。
 こうなれば、こっちのペースだ。これがヤクザの話術だ。決して反論を許さず、質問を畳みかけていく。
 次第に相手は自分が何を言いたかったのかわからなくなってくるのだ。