「鮨を食いました」
「え……?」
「山手通り沿いにある鮨屋です。お疑いなら、裏を取ってください」
「いや、何食べてもいいけどさ。そんなことを訊きたいんじゃないんだよ」
「それくらいしか、申し上げることがないんで……」
「西量寺っていう寺に行ったでしょう」
やはり、あの警察官たちが報告したのだ。
「行きましたが、それが何か……?」
「あ、やっぱり行ったんだ。そこで何をしてたんだ?」
「ご住職から、ありがたいお話をうかがっていました」
「ありがたい話って?」
「そりゃあ、仏教の話です」
「どんな話?」
「忘れました」
「ありがたい話なのに、忘れたの?」
「そんなもんですよ。お経と同じで、中身なんてよくわからないけど、とにかくありがたいお話だって感じることが大切なんじゃないですか」
「寺を脅しに行ったりしてないよね」
「どうして自分らが、寺を脅さにゃならんのですか」
「だから、それを訊きたいんじゃないか。何かを強要してるの?」
「ですからね。住職を脅して、私らに何の得があるんです」
「知らないよ。だから、それを教えてくれって言ってるんじゃないか」
「話になりませんね」
日村は溜め息をついてみせた。「強要の事実などありませんので、それを教えろったって無理な話です」
「何でもいいから教えてよ。でないと、北綾瀬署の立場がないんだよ」
「北綾瀬署の立場がない……。誰に対して立場がないのですか?」
「え……?」
「誰かから、何かを命じられているか、あるいは問い合わせを受けている……。そういうことですね?」
「いや……。俺はそんなこと、一言も言ってないからね」
「でも今、北綾瀬署の立場がないと、たしかにおっしゃいましたよね。それは、もしかして、中目黒署に対して顔が立たないってことじゃないですか?」
「だからさ……。そんなこと、言えるわけないだろう」