義理人情に厚いヤクザの親分・阿岐本雄蔵のもとには、一風変わった経営再建の話が次々舞い込んでくる。今度は町の小さなお寺!? 鐘の音がうるさいという近隣住民からのクレームに、ため息を吐く住職。常識が日々移り変わる時代のなか、一体何を廃し、何を残すべきなのか――。

「事務所に戻りますか?」
 日村が尋ねると、阿岐本はしばらく考えて言った。
「駒吉神社ってのは、この近所なんだな?」
「歩いて十分くらいです」
「稔」
 阿岐本が言った。「ナビ入れな。行ってみよう」
 すると稔は言った。
「その神社なら、場所はわかっています。お話の間にこのあたり、一回りしてきましたので」
「気がきくじゃねえか」
 稔がオヤジにほめられると、日村も誇らしい気分になった。
 車は、動きだすとすぐに停まった。昨日歩いたときは、けっこうな距離があると思ったが、車で移動するとすぐ近くに感じる。
 鳥居をくぐると、昨日と同じく大木が竹箒(たけぼうき)で境内を掃いていた。