「……で、うかがいたいのは、祭からテキヤが追い出された経緯です」
「昨日も申しましたが、警察がやってきましてね……。どうやら、住民からの苦情があったようです。祭で反社が露店を出していると……」
 阿岐本が言った。
「別に、ヤクザと言ってもらってけっこうですよ」
「何かいざこざがあったのならいざ知らず、バイをしているだけなのに、苦情が警察に行くなんて、何て世の中なんでしょうね」
 大木はごく自然に「バイ」という商売を意味する符丁を使った。テキヤとの長い付き合いがあるからだろう。
「警察がテキヤを入れるなと言ったわけですね」
「はい。条例でそうなっているので、と……」
「……で、警察が動いた背景には住民の声があったと……」
「そういうことです」
「住民の声ねえ……」
 阿岐本は溜め息をついた。「西量寺さんでは、鐘の音がうるさいと言われているらしいです」
「ああ、そうらしいですね」
「住職の田代さんとは同級生でいらっしゃるとか」
「そうです。小学校と中学がいっしょでしたね」
「お親しいんでしょうね」
「まあ、幼馴染みですから……」