「多嘉原会長から聞いた話だと、大木さんはずいぶんと会長たちのために頑張られたということですね」
「ああ……。町内会の人たちとは、ずいぶん話し合いましたね。まあ、中にはテキヤを入れて、昔ながらの祭もいいんじゃないかという人もいましたが、大半は暴力団排除という意見でしてね」
「まあ、そういうご時世ですから」
「ええ……」
「方針を変えられた理由はなんです?」
「え……?」
大木は、不意をつかれたようにきょとんとした顔になる。「方針を変えた理由……?」
「ええ。大木さんは、テキヤのために頑張られた。住民を説得しようとなさったのでしょう。しかし、結局、露店は町内会で出すということになった。それはどうしてです?」
「どうしてって……」
大木は、ほんの少しだがうろたえているように見えた。「それがご時世だと、今あなたもおっしゃったじゃないですか」
「そうですね。でも何か、テキヤをやめにしたきっかけがあったのではないかと思いまして」
「特にきっかけがあったわけじゃありません」
大木は力なく言った。「警察に言われちゃ、しょうがないでしょう」
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