あの男と出会った

パニックがいつ起こるかは、私自身にも予測できない。連続して大丈夫な時もあれば、同じく連続してダメな時もあった。性行為直前に漂う湿った空気が、突如私の悲鳴で切り裂かれる。その衝撃を受け流せる人は、決して多くなかった。

実父から性虐待を受けていたことを話せば、多少の理解は得られたかもしれない。だが、私はそれをどうしても知られたくなかった。そのため、「昔嫌なことがあった」という言い方で濁していた。

誰も彼もが、最初は私に寄り添う姿勢を見せた。しかし、事が度重なるたびに労りの表情は気怠げに変化し、最終的には「疲れた」と言い残して去っていった。無理もない、と思った。誰よりも、私が一番、私という人間に疲れていた。

いっそ生活のすべてをひとりで完結させてしまえたら、どれほど楽だろう。そう思う一方で、私は“ひとりの夜”が怖かった。夜になると、足音が聞こえる。床の軋む音が聞こえる。酒臭い父の息が、眼前に迫ってくる。

思い出すたび芽生える殺意は、行き場を無くして私の中に降り積もっていった。そんな時、あの男と出会った。穏やかな笑みをたたえた男だった。