ホテルの一室ではじまった“治療”

医師免許はおろか、心理士やカウンセラーの資格もない「心理学部に通う大学生」が、トラウマを抱える患者を「治療する」。

この危うさに、賢明な人ならすぐさま気づくだろう。長年の知識と経験を積み重ねた医師でさえ、複雑性PTSDの根治は難しいと語る。だが、それを「治せる」と言ってしまえるSの愚かさに、私は気づけなかった。

後遺症による精神の不安定さから、仕事が長続きしない私は、慢性的な貧困を抱えていた。病院に行く金もなく、処方された眠剤はすでに底を尽いていた。Sは、「大学でいくらでも手に入る」と言い、会うたびに安定剤をくれた(当然ながら、これは彼の虚言であるし、本当ならば犯罪である)。

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Sが無造作にテーブルに置く薬。私はそれを大切なもののように、一つひとつ水色の封筒に入れた。100円均一で買った水色の便箋セットは、私のお気に入りだった。