無理やり引きずり出された過去

薬を飲み、ベッドに横たわっているうちに、意識が朦朧としてきた。1錠のみならず、数錠の安定剤を飲み合わせていたのだから無理もない。ましてや、医師ではなく素人の処方である。飲み合わせに禁忌が混ざっていれば命に関わることもある。

それでも、私は彼の指示に従った。私はSを愛してはいなかったが、何事もきっぱりと言い切る彼の物言いは好きだった。一切の迷いや躊躇いがない口調は、私を安心させた。

自ら考え、何かを決めることが極端に苦手だった。余計なことを考えず、心を無にしてやり過ごす。言われたことだけを従順に、それ以外は何もせず、返事は「イエス」のみ。

ずっとそうやって生きてきたのに、社会に出た途端「自分で考えて決めなさい」と言われても戸惑うばかりで、いつも誰かが何かを決めてくれるのを待っていた。決断を間違えれば、制裁が加えられる。それが怖くて、責任から逃げるのに必死だった。

Sは、私から「思考」を奪った。何を聞いても言いよどむことなく、淡々と簡潔な答えを放つ彼は、まるで辞書のようだった。だが、残念なことに、彼の答えは辞書のように正確ではなかった。